私は二十五年間、子どもたちの体験教育活動に携わってきました。
毎年十一月に実施している四十キロナイトハイクは、夜の十時に出発する深夜の耐久徒歩です。参加者は小学生からですが、十九回実施して、延べ二千六百五十名が挑戦し、未だ一人の落伍者もいません。
幼稚園の年長さん、六歳児も保護者と一緒に、五十名以上参加していますが、二十キロの中間地点までは、全員歩いています。
子どもたちの体力や忍耐力の低下が、新聞などで問題になっていますが「今の子どもたちも決して劣ってはいない」というのが、私の正直な感想です。
そのナイトハイクでの出来事を紹介します。十年前、「建ちゃん」という小学四年生の男の子が参加しました。その子は、勉強も運動も大の苦手、行動もチョット幼稚で、夏のキャンプに来たときは、テントのそばで三十センチもある大きなミミズを見つけて、一日中眺めていました。
「四十キロはとても歩けないとは思いますが、本人が参加したい」と言っていますのでと、不安そうなお母さんのそばで、建ちゃんは、やる気満々という顔をしていました。
心配していたご両親は、五キロごとにある休憩地点に先回りして、励ましていました。二十キロの中間地点まで歩き切ったとき、ご両親は大喜びで、あとは出来る範囲でいいと、満足された様子で、自宅に帰られました。
三十キロ地点までは集団行動ですが、これから先は毎年、徒競争です。
建ちゃんが突然、私の側に来て「先生、僕走る」と言って、ジャンパーを私に預けました。ホイッスルの合図で二百名中、七十名の子どもたちが走り始めました。最後の十キロを一時間で走る小学生もいます。
当然、建ちゃんは上級生からすぐに抜き去られてしまいましたが、休まずに走っている姿に感動して、深夜にもかかわらず、建ちゃんの家に電話をしました。お父さんに「建ちゃん、走っていますよ」と言うと「信じられません。すぐ行きます」と答えられました。
三十五キロ地点を過ぎたところで、奥さんと一緒に、自動車で来られて、建ちゃんのすぐ後ろをゆっくりと、伴走し始めました。「建ちゃん、凄いですね」と声をかけると、振り向いたお父さんの目は涙で濡れていました。ゴールまであと二キロの地点まで来たとき、ついにお父さんは自動車から降りて、一緒に走り始めました。
ゴール地点で待っていると、お父さんと建ちゃんが手をつないで走っている姿が見えてきました。ゴールしたとき、お父さんの目には涙があふれていました。そして、ゴールで待っていたお母さんの目にも、涙があふれ、感動的なゴールでした。しかし、建ちゃんには、なぜ、ご両親が泣いているのか、理解できないという顔をしていたのが印象的でした。
子育ての素晴らしさとは、日々の小さな感動と喜びの中にあることを学ばせて頂いた出来事でした。
「子どもたちは場面があれば、頑張れる」というのが、私の実感です。
勉強以外の場面で、認められる場面作りが教育現場では必要だと思います。